実用的なストレート式ICラジオ...page.1/7


はじめに...

ここではIC(集積回路)を使って簡単に製作できて、完成後も充分に実用となるラジオを作ってみましょう。

いままで様々なストレート式ラジオを作ってきて不満があれば是非、当回路を製作してみて下さい。
AM放送帯(531KHz〜1602KHz)をまんべんなく楽しむことができます。

3端子ラジオICで知られるLMF501Tとは比べ物にならないほどの感度です!



概要

既に紹介しているFMラジオに使ったIC(集積回路)、東芝:TA7792PとTA7368PでAMラジオを構成しました。

TA7792PはAM/FMの2バンド用ラジオのICです。
AMラジオ部はスーパーヘテロダイン方式の構成内容ですがストレート方式の回路で製作することにします。
スーパーヘテロダイン方式で作りますと部品の収集が困難になること、回路は出来ても調整が困難であり失敗する確立が高いなどの理由でストレート方式としました。

TA7368Pは低周波電力増幅ICです。
電池を使ったセットでスピーカーを駆動する場合に適したICだと私は好んで使っています。外付け部品が少なくて使い易いICです。



(参考)ストレート方式とスーパーヘテロダイン方式のしくみ

ラジオ工作で話題となるストレート方式とスーパーヘテロダイン方式の仕組みについて私なりに簡単に説明します。

ストレート方式とは、同調回路から高周波増幅(省くことがある)、検波、低周波増幅(音声増幅)のラジオの基本となる部分を通過させたものです。
ラジオの勉強には欠かせない回路と言えましょう。
ゲルマニウムラジオでは同調回路と検波だけを利用したラジオであることはよく知られています。



ストレート方式の欠点(スーパーヘテロダイン方式と比較して)は、隣接した放送局の周波数と混信しやすいということです。この混信を克服しようとすると下図のブロック図のように複同調回路を組む事になり、少し複雑になってきます。
そして、最大の欠点は、受信感度を上げようと高周波信号を何段も増幅すると発振しやすいということです。





スーパーヘテロダイン方式とは、周波数が少しづれた2つの信号を混合すると、その2つの周波数の差の周波数がビート(うなり)となって現れる「ヘテロダイン現象」を利用したものです。
例えば自分ともう一人が同時に口笛を吹いて出来るだけ音色を合わせようとしていると口笛の音色とは別の「フルルルル...」とゆっくりしたビートを感じることがあるでしょう。これをヘテロダイン干渉やヘテロダイン現象と呼びます。この現象は音や電波の他、光についても起こります。


人間の耳に音として感じる周波数は加齢によって変化しますが20Hz〜20000Hzと言われています。
そこで例えば1500KHzの放送電波に同調させて、1501KHzの発振回路を作り、同調回路と混合させると、人間の耳に感じる1KHz(1000Hz)のビートとなって現れます。
このような人間の耳に聞こえる周波数にいきなり変換するラジオ回路を単に「ヘテロダイン方式」と呼び、音声放送を楽しむことはできませんが、主にモールス信号を受信する用途に使われます。これは搬送波があった時だけビートが発生するので理解できるでしょう。

そこで人間に聞こえない高い周波数(超音波:スーパーソニック)に周波数変換させた後に検波して音声信号を得るラジオ回路を「スーパーヘテロダイン方式」と呼びます。
例えば1500KHzの放送局に同調をさせ、1955KHzの発振回路を作り、同調回路と混合させると、人間の耳には感じることができない455KHzのビートとなって現れ、これを検波すると音声を取り出すことができます。

スーパーヘテロダイン方式で局部発振回路との混合で得たビート周波数を「中間周波数」と呼び、国内の標準ラジオ受信機ではAM放送帯で455KHz、FM放送帯で10.7MHzとなっています。

決して中間周波数を455KHz又は10.7MHzにしなければいけないという事ではありませんが、中間周波数はどの放送電波に同調させても一定となるようにするのが普通です。



このようにスーパーヘテロダイン方式は、中間周波数が常に一定になるように同調回路と連動して、局部発振回路の周波数を変更させる必要があるのは理解できましょう。
この中間周波数を常に一定にさせる調整を「トラッキング調整」といい、トラッキング調整を制した者はスーパーヘテロダイン受信機を完全マスターしたと言われる程です。


ところで、例えばAMラジオにおいて1500KHzの放送に同調させて、455KHzの中間周波数を得る局部発振回路の周波数は1045KHz又は、1955KHzのいずれかになります。
受信周波数よりも高い局部発振周波数を使う回路を「上側ヘテロダイン」、受信周波数よりも低い局部発振周波数を使う回路を「下側ヘテロダイン」と呼び、AM受信機では上側ヘテロダイン、FM受信機では下側ヘテロダインの回路とするようですが作る側の勝手です。

そして、何故、周波数を変換する必要があるのか?
これはストレート方式で最大の欠点だった、高感度にしようと高周波増幅を多段に行なうと発振しやすいということを克服するためです。
同一の周波数を何段も増幅すると発振し易くなってしまいますが、周波数を変更することで更に増幅ができるので高感度なラジオに仕上げることが可能になります。
また中間周波数は一定としているのでフィルターを通過させることにより混信が少ない選択度の良いラジオに仕上げられます。

もっと高感度にしようと中間周波数を増幅した後に、もう1回周波数変換をして第2中間周波数として更に増幅を繰り返す「ダブルスーパーヘテロダイン方式」や、「トリプルスーパーヘテロダイン方式」も存在します。


これまでは、受信周波数とズレた局部発振を用いてビートを得る方式の説明を簡単にしましたが、受信周波数と全く同一の局部発振で混合させて直接検波する方式もあります。
このようなラジオ回路を「ホモダイン方式」といい、別名、「ダイレクト・コンバージョン方式」とも呼ばれます。

現在のラジオはスーパーヘテロダイン方式が殆どですが、欠点もあります。
より詳しく知るには書籍で勉強して下さい。
そしてラジオ回路に興味を持って、沢山の回路を実験されてほしいと思います。




回路図




VC: ポリバリコン
L: バーアンテナSL-55GT
C1: 22μF
C2: 0.022μF
C3: 22μF
C4: 0.022μF
C5: 22μF
C6: 0.022μF
C7: 0.022μF
C8: 100pF
C9: 22μF
C10: 1μF
C11: 0.022μF
C12: 1μF
C13: 100μF
C14: 470μF
C15: 100μF
R1: 22Ω
R2: 22Ω
R3: 100Ω
R4: 1KΩ
R5: 100Ω
SP:
SW: スイッチ
BATT: 3V




回路の説明

AM/FMラジオIC:TA7792Pの内部構造は下図の様子です。三角形をした部分は増幅器です。




AM RF 高周波増幅部
AM OSC 局部発振部
AM MIX 周波数混合部
AM IF 中間周波数増幅部
AM-AGC AGC回路部
AM検波 検波部
AF 低周波増幅部


以上のことから、先ほど記述した「スーパーヘテロダイン方式」のブロック図を全て内蔵しているのが判るでしょう(同調回路は除く)。
AGC回路とは、オートゲインコントロール(自動利得調整)の事で、弱い放送電波を受けた時は、各ステージの増幅度を上げ、強い放送電波を受けた時は各ステージの増幅度を下げ、結果、放送電波の強弱に関わらず均一の感度になるようにする付加回路です。

2ピンはAM/FMのバンド切替端子でプラス電源に接続するとFM動作、オープンでAM動作となります。
(ここではFM部の説明は省きます)

この本来はスーパーヘテロダイン方式で用いるTA7792Pを「ストレート方式」でラジオを組んでみました。

ストレート式なので局部発振回路と混合回路は必要ありませんから、局部発振回路(AM-OSC)の端子(4ピン)には単にコンデンサによりバイパスさせ、高周波信号(放送電波)は混合部(AM-MIX)をスルーさせます。

混合出力(5ピン)と中間周波数入力(7ピン)の間には本来は455KHzのフィルターを通して選択度を上げますが、ここでは単にコンデンサ:100pFにより直結して、AM-IFでは中間周波数ではなく、高周波信号(放送電波)のまま増幅させることにします。

AGCについてはストレートで組んだ場合でも若干の効果が認められたことを報告しておきます。
ただし、ストレート式ですから隣接した強い放送電波局との混信は避けられません。

8ピンから出力された音声信号はボリューム:10KΩにより音量調整をして、低周波電力IC:TA7368Pによりスピーカーを駆動させます。
TA7368Pの3ピンでは抵抗:100Ωを取り付けていますが、これはTA7368Pの電圧増幅度を落として使い易さの向上を図るためです。
このTA7368Pの3ピンに抵抗を取り付けることによる電圧増幅率の変化は下図の通りで、非反転回路と同一の算術となります。





Rfが0Ωの時は最大の電圧増幅率となり、(10KΩ+90Ω)/90Ωで算出され、約112倍(41dB)になります。
Rfが100Ωの時は(10KΩ+190Ω)/190Ωで算出され、約54倍(34dB)になります。
(デシベル計算は関数電卓で求めて下さい。)

実験をしてみるとTA7792PとTA7368を接続する場合ではRfが0Ωですと普段聞くボリュームは絞った位置が多くなることがわかりましたので、Rfを100Ωとしてみました。
尚、既に紹介しているFMラジオについても、この場にて是非、同様な抵抗:100Ωを取り付けて電圧増幅度を下げることをお奨めしたいと思います。


ここで、もう一つ、出力のコンデンサ:470μFによるカットオフ周波数について述べてみます。
ここのコンデンサで再生可能な低域(カットオフ周波数)が決定されます。
求めるに当り必要なパラメーターはスピーカーの直流抵抗値と、カットオフ周波数又は、出力コンデンサの値です。

出力コンデンサに470μFを用い、8Ωのスピーカーを接続した場合のカットオフ周波数は、
1/(2πCR)で算出され、1/(2×3.14×470×10-6×8)=42Hzとなります。

小型ラジオに用いるような小さなスピーカーではf0(最低共振周波数)は数100Hzのものが殆どですから470μFでは勿体無いと思われますが、出力コンデンサを100μFにしてカットオフ周波数を200Hzにすると、何となく迫力の無い音になってしまいます。

その他、デカップリング回路(22Ω、22μF、0.022μF)が目立ちますが、念の為に挿入しました。
TA7368Pの入力端子に接続した1KΩについても同様です。
省く場合は実験をして異常の無いことを確認して下さい。


これら回路はFMラジオと同じく乾電池2本の3Vでオペレートすることとします。


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