FMラジオ...page.1/4


はじめに...

FM放送(frequency_modulation:周波数変調)は、AM放送(amplitude_modulation:振幅変調)と比較して搬送波の粗密が基本のためパルス性ノイズに対して有利で、伝送する音声周波数も15KHzまで延びており(AM放送は7.5KHzまで)、品質が高いのが特徴です。このため、オーディオ機器のソースとして一般的で放送内容も音楽番組が多いいようです。
FMステレオ放送,文字放送,検波回路など詳しい内容は通信工学などの書籍を参照して下さい。

FMラジオは扱う周波数が高く(76〜90MHz)、設計・製作はかなりの高周波技術と経験が必要になりますが、ここでは集積回路(IC)を用いて簡単に仕上げました。また、作り易さでモノラル構造としました。
部屋のBGMとして充分満足できる音質と音量なので是非、製作してみて下さい。



概要

2個のICを使います。全て東芝製のICでラジオ部にTA7792P、低周波電力増幅部にTA7368Pを使いました。
外付け部品も少なく簡単です。
電源は単3電池2本の3Vとしています。消費電流は約10ミリアンペア(無信号時)と小さいため電池は長持ちします。



回路図




回路の説明

TA7792PはAM放送とFM放送を受けることができる2バンド用ICです。が、ここではFM受信部のみを使いました。専用IC(カスタムIC)なので特別な定数変更はしていません。
FM放送はプリエンファシスといい、イコライザに似た周波数特性を持たせています(高域を持ち上げている)。このため受信側でフラットな周波数特性に戻すため高域を下げる必要があります(ディエンファシス)。回路では検波出力端子(8pin)に0.01μFを接続して接地している部分になります。これは、高域を下げてフラットな周波数特性にすると共に高域のノイズを低減させる工夫です。
8pinから出力された音声は10KΩのボリュームにて音量調整された後、スピーカを駆動(低周波電力増幅)させます。
低周波電力増幅にはTA7368Pを用いました。TA7368Pは電源電圧3V,スピーカのインピーダンスを4Ωとした時に得られる出力電力は120mWです。家庭で聴くには不満は無い筈です。電圧利得は40dB(100倍)ですからTA7792Pの8pinから出力される音声電圧(45mV)を増幅するには充分です。

TA7792Pの動作電源電圧範囲は0.95V〜5V、TA7368Pは2V〜10Vになっています。今回製作するものの電源には単3電池2本の3Vとしました。最低動作電源電圧はTA7368Pが先に制約を受けるので2Vになります。

音量調整以外に抵抗は1本も使わないので簡単でしょう。


部品リスト

固定抵抗は使いません。
最も高価なパーツはタイトバリコンですが、同じものでも購入する店で価格が違います。よく歩いて安価な店を探しましょう。

品名 規格 個数 備考 予算
ラジオIC TA7792P 1 東芝製 \220
低周波電力増幅IC TA7368P 1 東芝製 \120
タイトバリコン 10pF 1 \600
セラミックフィルタ 10.7MHz 1 SFE10.7を使ったが相当品で可 \150
7mm角コイル 144MHz 2 メーカー問わず @\180
7mm角コイル 10.7MHz 1 メーカー問わず \220
セラミックコンデンサ 15pF 2 50V品 @\20
セラミックコンデンサ 0.1μF 1 50V品(25V品でも可) \30
マイラーコンデンサ 0.01μF 1 50V品 \120
電解コンデンサ 1μF 2 50WV @\50
電解コンデンサ 100μF 2 16WV @\60
電解コンデンサ 470μF 1 16WV \80
ボリューム 10KΩ(Aカーブ) 1 \240
ユニバーサル基板 ICB288G 1 サンハヤト \170
ターミナル 1 取付けパネルと絶縁されるもの \150
小型トグルスイッチ 1 2端子又は3端子 \150
スピーカ 1 写真参照 \400
ツマミ 2 タイトバリコン・ボリュームの軸に合うこと @\200
アルミシャーシ 1 W:150mm*D:100mm*H:50mm \350
電池ボックス 単3電池2本用 1 必要に応じて電池スナップを用意する \70
サポータ 10mm 4 基板を浮かして取り付けるために使用 @\50
ネジ類 必要数 ビスの長さは6mmのものを使用すること -
配線材料 少々 -
タマゴラグ 1 \15




部品の概要

ラジオIC:TA7792P
低電圧で動作し、AM放送とFM放送が受信できるワンチップチューナー用ICです。今回はFM受信部だけを使います。
パッケージはDIP(デュアルインラインパッケージ)の16pinで端子は16本あります。
ピン番号の数え方は丸ポチ(又は欠き部)を印しにして下図のようになります。
尚、TA7792はパッケージの違いでTA7792PとTA7792Fがありますが必ずDIPタイプのTA7792Pを購入して下さい。
また、DIPのICは購入時は足(ピン)が広がっているので下図を参考に真っ直ぐになるよう手直ししておきます。


低周波電力増幅IC:TA7368P
無信号時の電流が少なく電池を用いたセットに向いた低周波電力増幅ICです。
外付け部品も少なくて済み、電子工作では良く知られているICだと思います。
パッケージはSIP(シングルインラインパッケージ)の9pinで端子は9本あります。
ピン番号の数え方は欠き部を印しに下図のようになります。
尚、パッケージの違いでTA7368PとTA7368Fがありますが必ずSIPタイプのTA7368Pを購入して下さい。

タイトバリコン:10pF

AMラジオで用いるポリバリコン(可変容量コンデンサ)は最大約260pFですが、今回はタイトバリコンの10pFを使います。
ポリバリコンと違ってシャフト(軸)はグルグル回転します。
このタイトバリコンを見ますとバリコンの構造がよく判ります。
ローター羽(動く電極)とステーター羽(固定される電極)の隙間は狭いので変形させて接触させないよう注意して扱って下さい。
軸はローター羽と同電位となるので金属製シャーシに取り付ける場合はシャーシに接触させないようにシャーシを加工します。
今回は金属(アルミ)のシャーシを使ったので作り方を参照して下さい。

セラミックフィルター:10.7MHz
セラミックフィルターの電子記号は前ページの回路図を参照して下さい。
セラミックフィルターは圧電素子の共振を利用した部品で、決まった周波数付近を通過させる働きがあります。今回使ったものは10.7MHzでFM受信機の中間周波数に当たり、多く出回っているので入手し易いと思います。私はSFE10.7を使いましたが入手できるもので結構です。

7ミリ角コイル:144MHz,10.7MHz
コイルは10ミリ角と7ミリ角の2種類が多く出回っています。必ず7ミリ角のコイルを購入して下さい。これは、コイルの足(ピン)の間隔がICピッチ(2.54mm)のユニバーサル基板にフィットするからです(若干ずれていますが問題ありません)。
用意するコイルは次の計3個です。
144メガヘルツ用・・・2個
10.7メガヘルツ用・・・1個
10.7メガヘルツ用は裏に小さな小さなコンデンサが内蔵されています。また、10.7メガヘルツ用は写真右に示すよう製造するメーカーにより同じ7ミリ角のコイルでも高さや外観が異なる場合もありますが全く問題ありません。

各コイルは調整コアが付いていますが回さないでおきます...!

コイルの外装は金属ケースにシールドされており通常はグランドレベルに接続して使用しますが今回はどこにも接続しないで製作しますので、シールドケースの2つの爪は折ってしまいます(作り方で詳しく説明)。

ピンはシールドの爪を除くと5本あります。3ピン並ぶ側が1次巻線、2ピン並ぶ側が2次巻線になっており、使うピンは1次巻線の両端2ピンだけです(下図参照)。


セラミックコンデンサ:15pF,0.1μF
誘電体に磁器を用いたコンデンサで高周波回路に多く使われています。
以下の3本を用意します。
15pF(ピコファラッド)・・・2本
0.1μF(マイクロファラッド)・・・1本
耐圧は50ボルトで、0.1μFでは25ボルト品でもOKです。

写真では15pFが淡い緑色をしていますが0.1μFと同じ色の茶色もあります。また、頭にちょこっとだけペンキが塗られたものもあります。気にしないで下さい。
15pFは「15」と表示され、0.1μFは「104」と表示されています。

マイラーコンデンサ:0.01μF
誘電体にマイラーフィルムを用いたコンデンサでフィルム系コンデンサでは多く出回っています。

0.01μFは「103」と表示されています。耐圧は50ボルト品を用意して下さい。50ボルトを超える耐圧のものは写真で見るより大きくなり外観も変わってきます。外観は写真は半透明の黄色をしていますが、メーカーにより無色半透明や緑色,茶色,赤色など様々です。

電解コンデンサ:1μF,100μF,470μF

電解コンデンサはケミカルコンデンサ(ケミコン)とも呼ばれ、化学で作られるコンデンサです。
アルミ箔を電解液に漬けて直流電圧を加えると表面に薄い酸化皮膜ができます。この薄い酸化皮膜を誘電体としたコンデンサです。
内部は陽極(酸化皮膜を施したアルミ箔)と陰極(普通のアルミ箔)の間に、電解液を染み込ませた紙を挟んだ構造になっています。

電解コンデンサは酸化皮膜が劣化したり、経時で電解液が乾いてくるので寿命のある部品と考えるべきでしょう。

電解コンデンサは、酸化皮膜を生成させるときに加える直流電圧により耐圧が定められます。プラス・マイナスの極性もあるので、耐圧と極性は必ず守って使用します。
耐圧には主に、4v,6.3v,10v,16v,25v,50v,63v,80v,100v...があります。

更に電解コンデンサには許容温度も示されています。主に、85℃,105℃,125℃があり、85℃品は汎用向け、105℃以上は工業向けで長寿命で高信頼性です(125℃品は個人の入手は難しい)。

今回使用する電解コンデンサは以下の5個です。
1μF耐圧50ボルト・・・2個
100μF耐圧16ボルト・・・2個
470μF耐圧16ボルト・・・1個
メーカーにより同じ規格でも技術の違いで大きさが異なることがあります。
私は「日ケミ(ニッケミ)」の85℃品のSMGシリーズ,SMEシリーズ又は、105℃品のKMGシリーズ,KMEシリーズを使っています。
電解コンデンサの極性は外装スリーブに表示されていますので組み立て時は間違えないで下さい。また、新品では長いリード線がプラス極です。

ボリューム:10KΩ(Aカーブ)
シャフトを廻すことで抵抗値が変化する部品です。シャフトを廻す角度と抵抗値の変化量の違いで主にAカーブ,Bカーブ,Cカーブがあります。
音量調整として使用する場合はAカーブのものを使います。
自分で選んで購入するときは稀にBカーブが混ざっていることがあるので現物をよく見て間違えないようにして下さい。大きさもいろいろありますが手頃で安価なもので充分です。


ユニバーサル基板:ICB288G
サンハヤト社のユニバーサル基板:ICB-288Gを使います。

ターミナル
FMラジオにアンテナは必要不可欠です。
今回はケースに金属製を使ったので、取り付けた際に取り付けパネルと絶縁されるものを使って下さい。

小型トグルスイッチ
トグルスイッチの種類は多くあります。電源のON/OFFで使うので2端子か3端子のものを購入します。
小型のものでパネルに取り付けやすいものを選んで下さい。

スピーカ

スピーカは安価なもので充分ですが若干大きめのものを選んだ方がいいでしょう。私は口径70ミリのスピーカを使いました。口径57ミリでは物足りません。
また、写真のようにフレームに取り付け用ネジ穴があるものが便利です。
インピーダンスは4Ω〜8Ωのものを選んで下さい。

高価なHi-Fiオーディオ用スピーカを購入する必要はありません。

ツマミ
同調で使うタイトバリコンと、音量調整で使うボリュームに取付けるツマミです。多くの種類があるので自分の好みで選択して下さい。
私はタイトバリコンとボリュームに使うツマミの大きさを違うものとしました。

購入時はタイトバリコンとボリュームのシャフト(軸)の太さに合うか確認して下さい。

アルミシャーシ
私は写真のような底板がないアルミシャーシ(W:150mm*D:100mm*H:50mm)を使いました。
過去の経験から乾電池を使うセットに金属製ケースを使った場合、乾電池の交換する度にドライバーでフタを開けるのが面倒になり、折角苦労して作ったのに使わなくなってしまうことが多いためです。

ケースとしてタッパウェアを使ってみても結構ですが、安定した動作のためにもアルミ製のものをお奨めします。

電池ボックス
単三電池が2本セットできる電池ボックスを使用します。必要に応じて電池スナップも購入します。
シャーシとは両面テープで固定します。

サポータ
私はサポータと呼んでいますが、スペーサともいいます。
回路基板がアルミシャーシに接触してショートしないように少し浮かせて取付けるために使用します。高さ10ミリのものを使いました。
写真のようにネジが付いているタイプが便利です。金属製です。

ネジ・配線材料
ビス・ナットは全てφ3ミリで回路基板の取付けで4組、スピーカの取付けで4組、タイトバリコンの取付けで2個(ナットは使用せず)を用意します。ビスの長さは全て6ミリとしました。特にタイトバリコンの取付けで長いビスを使うと電極に当たるので注意して下さい。
また、必要に応じてワッシャも用意して下さい。

配線材料はアンテナも含めて3メートルもあれば充分です。

タマゴラグ
リード線の一端とネジを接続する媒体に使います。
今回は回路の一部をシャーシに接続しシャーシアースするために使います。

入手できない場合はリード線の被覆を剥いてハンダメッキを施してナットと共締めしても構いませんが、切れないように注意する必要があります。


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